うきわ ―友達以上、不倫未満―
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放映開始 : 2021年8月
放送局 : テレビ東京
エピソード数 : 全8話
テレ東を何かしら見ていたら度々流れていた予告映像のルックが良さげだったのが気になって検索してみたところ、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の本間かなみというプロデューサーと風間太樹という監督が携わっているのを知って、リアルタイム視聴を即決。 派手さの無い事が逆に信用できるキャスティングは作品の狙いとも合っていたし、実際の芝居や発せられるセリフも臭くなり過ぎずこちらに響くものが沢山あり、誰かと一緒に生きていく上で本当に必要なものは何かとか、起きてしまった事がたとえその後元に戻ったとしても、それに対峙した人の中で変わってしまった世界が元のかたちに戻る事は決して無いのだ…みたいな事について考えさせられる、期待通り毎週楽しみに見ることの出来た良いドラマだった。
物語は、勤務先の転勤で広島から東京の社宅へと引っ越してきた中山拓也と麻衣子が、その隣に住む上司の二葉一と聖という二組の夫婦に挨拶をするところから始まる。
パッと見では仲睦まじく見える平凡な両夫婦なのだが、中山家では拓也の携帯電話に届いたメッセージの通知を麻衣子が偶然見た事で、二葉家では聖の通う陶芸教室での講師とのやり取りを一が見てしまう事から、それぞれの夫婦で進んでいるパートナーの不倫が明らかになってしまう。
思い悩む麻衣子が一に思いを吐露した勢いでお互いの状況を知るところから距離を縮めると、壁一枚隔てた隣り合わせのベランダや、朝のゴミ捨てという限られた環境で会話を重ねるささやかな時間に安心感とときめきを覚えて、不倫している拓也と向き合う事から逃避するように、一との会話を求めていく。一の方も頼られる事に心地よさを感じて、同様に聖との間にある問題からは見て見ぬふりをするように麻衣子との関係性を楽しむようになる。
パートナーの不倫という同じ出来事に直面した、立場の似た者同士が慰め合うように始まった麻衣子と一の関係はしばらくズルズルと続き、それぞれが抱えている夫婦間の本質的な問題とパートナーへの思いの決定的な違いが立ち上がってくる。
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主人公の中山麻衣子(門脇麦)は結婚1~2年目の夫婦の妻で、夫である拓也の転勤に伴い広島での仕事は辞めてきたのだが、家事をこなして夫の帰りを待つばかりになりがちな専業主婦としての暮らしにはどこか居心地の悪さも感じて、クリーニング屋でのパートを始める。 すぱっと物を言う一方で、自分の感情的な部分に関しては主張を飲み込んだり、無意識に相手へ合わせてしまう一面があり、実はそうした振る舞いについて、拓也の中には些細ではあるが消えないわだかまりがある。
バイトの同僚では大学生の佐々木誠と波長が合い、夫婦関係についてぼやかしながら意見を訊いてみたりしては冷静に突っ込まれたり煽られたりしている。
カメラに対して正対に捉えられる場面が多く、その度に目が行く門脇麦の顔の左右の微妙なバランスの違いは、演じている麻衣子の不安定な心情とも重なって見える気がしないでもない。
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もうひとりの主人公、二葉一(森山直太朗)は拓也の直属の上司にあたる。 物腰は柔らかく思いやりがあって、女性に対する一定のデリカシーは持ち合わせており、妻の聖に対しても勿論優しい。
また趣味や人付き合いがある様子はなく、特に寄り道もせずに帰宅する描写が繰り返される。それは家庭を大事にしている表れではあるのだが、帰宅した家に聖がいる事はあまりなく、どこか諦めや後悔のような空気を帯びていて、子供を持つことを強く求めながら叶わなかった聖との微妙な温度差や、気遣ってかける言葉の些細なずれの連続から広がってしまった表には見えない溝を前に悩んでいるのが伝わってくる。
麻衣子に対する佐々木と似た関係の存在に部下の愛宕梨沙がいて、こちらは何かを相談するまでもなく社内での振る舞いからいろいろ見透かされて指摘されることが多く、その客観的な視線によって麻衣子との関係について一線を越えずに踏みとどまらせてもいる。
寝巻のTシャツがでかい。
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中山拓也(大東駿介)は麻衣子の夫でありながら、会社の後輩福田歩と不倫をしている。 新しい環境でもすぐに周りと打ち解けられる社交性の持ち主で、麻衣子にも当然優しく接しているものの、節々で家にいる女性の事などは無意識に軽んじているような言葉を発して傷つけたり幻滅させてしまうほか、逆に麻衣子が不倫をしているのではという疑念を持った時には、自身の不倫は棚に上げて動揺してしまうような、平凡な男性として描かれる。
ちなみに麻衣子の浮気を疑った際には「妻 様子おかしい」で検索していた。
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二葉聖(西田尚美)は一の妻で、陶芸教室の講師田宮悠と不倫をしている。 結婚後も仕事は続けており、傍目から見ると仕事と家庭の両立した理想像のように捉えられがちだが、子供をもうける事が叶わなかった事に関して、一とは気持ちのズレがあるのを認識してしまい、それを直視するあまり生じてしまった心の空白を埋めるように、とにかく陶芸教室の田宮悠のもとに通いまくっている。
田宮とのいちゃつきぶりは一でなくてもちょっと戸惑ってしまう。
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福田歩(蓮佛美佐子)は拓也の同僚で大学時代の後輩でもある。 学生時代、密かに思いを寄せていた拓也が同じ部署に転勤してきた事から話が弾み、流れで不倫関係を持つことになる。かつては拓也に対して好意を伝える事も出来ないような性格だったが、今では拓也の事を積極的に誘ったりからかったりも出来る。
いまだ男性中心的な風土が残る勤務先において、男性と張り合える仕事の業績や評価に自信を持っており、女性である自分が社会の中で勝つ為として交際関係や身につけるもので武装しているが、それらへの虚しさに気づき始めてもいて、学生時代の憧れであった拓也とのシンプルな恋愛関係にはそこからの逃避の意味合いでもあったりするらしい。
何かのたとえに野球の概念を持ち出すが野球の事はよく知らないというありがちな事もする。
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田宮悠(田中樹)は二葉聖の不倫相手である若い陶芸家。 近隣の市民に向けた陶芸教室を自分のアトリエで開いており、聖ともその教室で出会って今の関係に至る。
聖との関係以外の描写は少なく、他の登場人物に比べて背景がそこまで明らかにされない。ただし奨学金の返済など経済な面で苦労している様子はちらちらと見えていて、それに感づいた聖からは援助のつもりで陶芸作品を買わせるよう度々迫られるのだが、そこは固辞して聖とのピュアな関係を望んでいる。
聖のろくろを回す手に自分の手を添えた際に、聖がかましてきた「パトリック・スウェイジだ〜」という40代っぽいネタは余裕でスルーしていた。
エンディングテーマの三浦透子「通過点」に比べると、オープニングの安藤裕子「ReadyReady」は抑揚の激しいアレンジと歌い方で、ドラマ本編の雰囲気とは少し乖離があるような気もしたが、乱されてかつて予期していたものをは変わっていく日常という意味や、各話のスタートにどう転がっていくのかという不安を煽る役割を果たすのにはあのくらいが必要なのかもしれない。